今日は話したくないなあと思いつつも寝る頃になると声を聴きたくなりコールしてしまう。電話だけで何がわかる?と思いもするが、数日じっくり話を聞いてみて、この人に嘘はない、ごまかしもない、と心から思えるようになった。私は思ったことを何でも話す。ひとつの事を除いては。

思ったことを全て言えるなんて久しぶりのことだ。明確に自分の言葉で返してくれるきっとこの人なら幸せにしてくれると思えるのに消えないもやもや。その原因は考えても考えても見えてこない。そう言うと「急ぐ必要はないよ。結果がどうなってもいなくならないし前みたいに突然音信普通になってもわかってるから大丈夫。また必要になった時電話してくれたらいいんだし」と言う。以前なら"嘘くさい"とか"臭すぎる"と思っていただろうが、この人は心からこう考えられる人なので素直にうなずくことが出来たし、それと同時に連日のもやもやの原因が明確に現れて涙と一緒に大量に流れ出した。

長年感じないようにしてきたマイナスの感情は鬱積し心をも蝕んでいたのだろう。笑ってごまかされることにいつのまにか慣れてしまい、寂しさや空しさは胸の奥深くに押しやられ、ずいぶんと窮屈な思いをしていたのかもしれない。改札を抜けてから何度も振り返って大きく手を振ってくれた姿を明るい光だと思い込むことの愚かさ。彼ならその感情すら優しく受け止めてくれるだろうが、さすがにそれは言えない。

彼の優しさに触れると温かい気持ちになる反面、不安な気持ちにもなる。他人の手によって環境が変わってしまうことと同時に、離れていってしまう人たちのことを思うとやりきれなくなるのだ。10年近くコツコツと積み上げてきた年月がいとも簡単に崩れ落ち、はじめからそこには何もなかったかのように新地になってしまいそうな焦燥感は、すべてが嘘で出来てたんじゃないか?と思わせる。絶対にそんなことはないのだが(それがたとえ私ひとりであっても)、現実味のない関係は突然消えてしまっても探し出す方法がないのだから。たとえあの場所に生きていた証を残せなくとも、これからの人生に少しだけでもいいから勇気を与えてくれたら良いと思う。

私はこれからゆっくりと時間をかけて本当に進みたい道を見極め、その中で優しい彼の方向へ一歩踏み出せたらいいなと思う。きっと幸せになれる、幸せにしてくれる。今までの人とは全く違う場所に生きている彼を心から信じられるよう、ねじれてしまった心を解きほぐす作業をしていこう。